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国公法弾圧堀越事件 −国家公務員の職務外のビラ配布に違憲無罪判決−

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 元社会保険事務所職員の堀越明男さんが休日に自宅附近のマンション集合ポストに政党ビラを配布したことで、国家公務員の政治活動を禁止した国家公務員法(以下、国公法という)102条1項、110条、人事院規則14−7に違反したとして起訴された事件で東京高裁は3月29日の判決で、堀越さんのビラ配布行為を刑事処罰することは憲法違反であるとして、一審有罪判決を破棄して無罪を言い渡しました。
「原判決を破棄する。被告人は無罪」裁判長の主文宣告に満員の法廷内には「ウォー」というどよめきが沸きました。七年間の闘いをしてきた堀越さんをはじめ、弁護団や支援者らが待ちに待った結果でした。
 前掲の国公法と人事院規則は一体となって、国家公務員の政治的行為をほぼ全面一律に禁止しています。「職員が勤務時間外において行う場合においても適用される」となっていますから、職務を離れた時間や場所においても公務員の市民としての自由は認められていません。この規制の是非が国家公務員の政治活動をめぐって争われてきました。
 先例となった1974年の猿払事件最高裁大法廷判決は、「もし公務員の政治的行為のすべてが放任されるときは、おのずから公務員の政治的中立性が損なわれ・・・行政の中立的運営に対する国民の信頼が損なわれる」としてこの法律を合憲とし、公務員に対し政治的中立を求めました。
 今回の裁判はこの猿払判決の誤りを明らかにし、一般国家公務員の政治活動の自由を制限した国公法・人事院規則の憲法適合性を問い直すことが最大の目的でした。
 この日の判決は、政治的行為の中心をなす表現の自由は、民主主義国家の政治的基盤を根元から支えるものであり、国家公務員の政治行為もその保障の対象となると前置きしたうえで、猿払判決を検討しています。
 猿払判決は表現の自由の制限が許されるか否かについて「合理的関連性」なる審査基準によって判断しています。今回の判決はこの審査基準そのものの有効性を認めたうえで、審査基準を構成する三つの要素について猿払判決を改めて検討しながら、堀越事件への国公法・人事院規則適用の是非を探っています。
 判決を簡単に要約しますと次のとおりです。
 第一の審査基準である、法の目的については猿払判決どおり、「行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼」であると認めましたが、本件のような職務と無関係の政治的行為については特に後者の「国民の信頼」を問題にしなければならないところ、国民の信頼とは、行きつくところ国民がこの問題をどう受けとめるかという国民の法意識に帰着するので、その点から検討するとしています。そして猿払判決のあった35年前は公務員を一体とみてその影響力を強く考える傾向にあったから、猿払判決のいう公務員の「有機的一体性」論や公務員の政治活動の影響の「累積的、波及的効果」論にはそれなりに合理的基礎があったとして猿払判決を正当化しました。しかし、現時点の国民の法意識は民主主義の成熟、情報化社会の進展、イデオロギー対立の終息、グローバル社会の世界標準などから変化したとし、法の目的をこのような角度からとらえるべきだとしました。
 第二の審査基準である、法目的と禁止される政治的行為との関連性については、(1)公務員の職種、職務権限、職務内容を問わずに一律に禁止した点、(2)勤務時間の内外を問わずに一律に禁止した点を具体的に分析し、猿払判決は「現在においては、いささか疑問がある」とし、「過度に広範に過ぎる」規制については、具体的な適用の場面で適正に対応する必要があると述べて、今回の違憲判決への道を開きました。
 第三の審査基準である、規制によって得られる利益と失われる利益の比較衡量については本件への刑罰権の発動について言及し、国公法の罰則規定については抽象的危険犯であるとしながらも、猿払判決のようにこれを単に形式犯としてとらえることは相当でなく、「ある程度の危険」の想定が必要としました。そして堀越さんの職務内容職務権限や行った行為を分析して、慎重な対応が必要としたうえでこの事件に抽象的危険性を肯定することは困難として刑事罰の適用も否定しました。
 この日の判決には異例ともいえる付言がつき「我が国における国家公務員に対する政治的行為の禁止は、諸外国、とりわけ西欧先進国に比べ、非常に広範なものとなっていることは否定しがたい」としたうえ、規制は「過度に広範に過ぎる」と述べ、様々な分野でグローバル化が進むなかで、『世界基準』という視点から改めてこの問題をとらえるべきだとしました。弁護団の徹底的な立証が裁判所を動かしたといえます。
 私たち弁護団は裁判所が勇気をもってこの問題の解明に当たり、国民の常識に適った判決をしたことを高く評価しました。しかし、この判決に対し、東京高検は上告しましたので、国家公務員の政治活動と表現の自由をめぐる論議は改めて最高裁で争われることになりました。

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